日本大学芸術学部映画学科

映表理の授業〈映画ビジネスⅢ〉では、春から受講生がインターンシップを行っています。インターンシップが終了した学生からレポートが提出されました。

2024年度の第1弾となります。
インターンシップで学生を受け入れていただいた会社は、「株式会社パンドラ」です。

インターンシップ報告書

清水千智

私は4月から9月の間に計20日、株式会社パンドラでインターンシップを行なった。パンドラでの仕事は、まず事務所の掃除から始まる。有楽町線の新富町駅から徒歩数分にある、5階建ての小さなビルの3階に事務所はある。出勤して、代表の中野さんと女性社員さんに挨拶をすると、早速掃除機で床の掃除を始める。掃除機を使う際には窓を明ける必要があった。猛暑日が多く、部屋には蒸し暑い空気が入ってくるためよく汗をかいた。床掃除の後は、窓を閉めて、トイレの掃除、キッチンシンクの掃除、資料が置かれている棚の埃拭き、玄関前の箒がけと続いて、新聞や再生紙が溜まっていたら捨てやすいようにテープでまとめておく。ちょうど出勤日の翌日が再生紙回収の日だった。

事務所の掃除が終わると、いよいよ映画に関する業務が始まる。宣材や商品といった荷物を発送するための梱包作業から始まることがほとんどであった。梱包するものは主に、チラシ、ポスター、パンフレット、上映素材、書籍である。インターンシップ期間中に公開していた、もしくは公開予定であった作品は、『ナチ刑法175条』『私の物語』『助産師たちの夜が明ける』『この星は、私の星じゃない』であった。これらの作品の宣材について、どの劇場に何枚チラシを、何枚ポスターを送ってほしいといった指示を受ける。一度に数箇所に送ることも多かったので、混乱しないように伝票から先に書くと良いと教わった。チラシは一度に数百枚から、多いと数千枚を一つの劇場に送るが、それでも後日、追加のチラシを送ることもあった。数百枚であれば封筒に入れて送ることができるが、数千枚となると段ボール箱を使うことになる。丁度良いサイズの段ボール箱があることは少なく、オーバーサイズの箱をカッターで切ってサイズを合わせる。ポスターの場合だと、ポスターのサイズに合わせて段ボール板から自分で箱を作ることがほとんどであった。ピッタリのものが常に用意されている訳ではない。パンフレットはチラシと違い、送る部数は少ないが商品なので、納品書を入れ、梱包には細心の注意を払う。

商品というと、パンドラでは配給業務の他にも、書籍やDVDの販売を行なっている。書籍を発送する際には、公開中(公開予定)のチラシを同封するのが肝だ。オンライン上で購入されたものを発送するが、書店や映画館でも販売しており、ヒューマントラストシネマ有楽町まで納品しに行くこともあった。普段は客として接している従業員の方と、今度は取引先として会話するというのは不思議な感覚だったが、冷静に考えれば映画の仕事をするということはそういうことだ。他にも、上映素材を目黒シネマまで納品しに行ったこともある。目黒シネマは入り口前に券売機があり、入るとすぐ受付がある。パンドラの「名札」を首から下げている訳でもない(そもそもそんなものはないが)、私服の大学生が入るのだから客と間違われても仕方がない。パンドラの者ですとアルバイターに告げた時もこれまた不思議な感覚になった。しかし、書籍にせよ上映素材にせよ劇場に納品しに行って担当の方と顔を合わせると、自然と尊敬の念が起こり、気が引き締まるのだ。劇場とはパンドラで行ってきた仕事が実を結ぶ場所である。日々積み重ねてきた細かな仕事は、全て上映のためのものであり、彼らの仕事によって私たちの仕事は完結し、報われる。これも当たり前のことだが、私がそこに感謝の念を抱いたのは、基本的に一日中事務所にいて、さまざまな仕事を同時並行で進行する中で、業務に気を取られてそんな単純なことに気づく余裕がなかったからだろうかと、振り返れば思う。初めは仕事を覚えることに集中していたこともあり、依頼された仕事の一つ一つはバラバラの業務と思っていたが、事務所から出て取引先の方と直に顔を合わせると、観客として赴くのとは全く違う考えになる。こういったことも、パンドラで日々の仕事を積み重ねてきたから感じられるようになったのだと思うと、インターンシップという体験がいかに貴重で重要なものかが分かる。

パンドラでの仕事は他にも様々ある。宣材や商品の発送には宅急便を使うが、月ごとに利用金額を確認して伝票に書き出す。試写状やチラシを送るための送り先リストをつくり、リストを元に宛名をエクセルに書き出してシールに印刷、ハガキの束やチラシを入れたOPP袋の一枚一枚にシールを貼ってゆく。作品が紹介されている新聞や雑誌などのページはコピー機でスキャンする。近場の試写室にチラシを置きに行くこと、銀行や郵便局までお使いを頼まれることもあれば、事務所にお客様が来たときはお茶を淹れることもある。どの仕事にしても、中野さんや社員さんから一点一点を細かく教えていただいたので、とても勉強になった。インターンは雑務が基本、と事前に先生から聞いていた。雑務と聞くと嫌がる人も多いと思う。しかし、「雑務」は仕事の最小単位である。最小単位が見えなければ、仕事を正確に理解できない。すなわち、何か問題が起きた時に、正しく改善することもできないし、日々の仕事が組み合わさって結果を生むということも感じにくくなる。掃除に始まったパンドラでのインターンシップで、私はその最小単位を、他では経験できない貴重な体験をさせて頂いた。20日間、身体を通して得られたこの経験は将来、必ず活かされるだろう。お世話になったパンドラの皆様と取引先の方々に敬意を込めて、改めてお礼申し上げます。

「パンドラ」でインターンシップをおこなっている様子

2024/09/30

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