映像表現・理論コースの2年生の、映像専攻とシナリオ専攻の第1課題は、シナリオ専攻が書いたシナリオを、映像専攻が映像化して、ショートムービーを完成させる課題です。
今年度も、A、Bの二班に分かれて、2本の作品を作ります。
班ごとに学生たちは相談して、シナリオが完成しました。
まず、A班のシナリオを紹介します。
作品が完成したら、動画を載せますのでお楽しみに!
次回はB班のものを掲載します。
(このHPの関係で、行替えなど多少読みにく部分があるかもしれませんが、ご了承ください)
平成二十七年度 映画学科 映像表現・理論コース
シナリオ専攻・映像専攻 第一課題
A班『90分休み』
[登場人物表]
角田誠(19)日本大学芸術学部二年、男子。以下マコト
高橋翔(20)日本大学芸術学部二年、男子。マコトの友人。以下ショウ
体育教師(30)日本大学芸術学部の体育教師
教師(50) 日本大学芸術学部の教師
石井(20) 日本大学芸術学部二年、男子。マコトとショウの友人
河野厚美(19)日本大学芸術学部文芸学科一年、女子。以下アツミ
1 学生課の掲示板前・十月のとある朝九時
掲示されている紙を見つめるマコト(19)。
紙には“一限・芸術学Ⅱ休講”の文字。
マコト「ふぁ〜」
マコト、眉を寄せて不満げにあくびをしてからフラフラと歩き出す。
青空の下、校舎では、チャイムが鳴っている。
2 タイトル「90分休み」
3 食堂前・九時五分
人がまばらな食堂前。食堂前の時計には九時五分が示されている。
マコト、歩きながら辺りを見回す。ベンチに座り、携帯をいじりながら煙
草を吸っているショウ(20)が、マコトを見つけ軽く手を上げる。
ショウ「マコト」
マコト、ショウの元へ歩み寄る。
マコト「まさかの休講な」
ショウ、携帯を仕舞ってから、イラついたように煙草の火を消す。
ショウ「まじあり得ないわ、二限までの俺らの貴重な90分どうしてくれんだよ?」
マコト「どうせ家でも寝てるだけじゃん」
マコト、ショウの隣に腰掛ける。
ショウ、マコトの方へ向き直り、身振り手振りで説明を始める。
ショウ「え?それまじで言ってる?90分あったら、まずサッカーの試合できるし、カラオケなら18曲も歌えるぜ?あとは、順番にお湯注いでも、カップラーメン30個完成するわけ。わかる?この時間の貴重さ!」
マコト「ラーメンの例え微妙だけど、あー、バイトだったら時給千円として、90分だから千五百円は稼げたわけね」
ショウ「そ!タイムイズマネー!あーもったいな、この時間!」
ショウ、脱力した様子でベンチに横たわる。
マコト「まぁこっちは授業料払ってるわけだしなぁ。たしか一回六千円だろ?」
ショウ「あそっか」
ショウ、固まり突然起き上がる。
マコト「何?もしかして、金返せって学生課にでも押し掛ける?」
ショウ「いや、それはさすがにな。で、ここで俺の柔軟な発想!」
ショウ、立ち上がり得意顔で言う。
ショウ「授業に出る!」
マコト、呆れたように。
マコト「は?なんだそれ」
4 グラウンド・九時二十分
マコトの腕時計のアップから背景のグラウンドへ視点が移る。
グラウンドではジャージ姿のサッカーボールを持った生徒が3、4人で談笑している。
グラウンドを少し離れた場所から見つめるマコトとショウ。
マコト「いやいや、コレ無理だって。第一、俺らほら」
マコト、私服とジャージの違いを主張する。
ショウ「忘れたって体でいけるっしょ」
ショウ、鞄を置く。
マコト「え?本当に行くわけ?てか俺、サッカーのルールとか知らないし」
ショウ「あれ?実技やってなかった?」
マコト「それはまぁ、色々ありまして…」
マコト、下を向いて言葉を濁す。
ショウ「ま、ルールとかそんなのはなんとでもなるって。目的は授業料の元取ることだから!レッツゴー!」
渋るマコトを尻目に意気揚々と歩き出すショウ。
マコト、渋々ショウの後ろを歩き出す。体育教師(30)、グラウンドの方向を向いて笛を鳴らして指導している。
マコト、つられて教師の方を見る。
マコト「うわ、やばいやばいやばい、ショウ、ハウス!ハウス!」
ショウ「え?なになになに?」
マコト、元の場所まで戻り、ショウの背後に隠れ、小声で話しだす。
5 グラウンド(マコトの回想)
手足に包帯をぐるぐる巻きにしたマコトが体を傾けながら体育教師にわざとらしく申し訳なさそうな顔をして頭を下げている。
体育教師が渋々去っていくとマコトは包帯を脱ぎながら素知らぬ顔で普通に歩き出す。
マコトM「ここの先生、前期に骨折したって嘘ついて、超泣き落としで無理矢理単位もぎ取った人だったわ」
6 グラウンド・シーン4の続き
ショウ「え、お前そんなことしてたんだ!」
マコト「いやまぁ、とにかく複雑骨折ってことになってるから。いるのバレたら俺の単位がやばい」
マコト、グラウンドの方向をこっそりと気にしながら、逃げ出そうとする。
ショウ「お前も中々の阿呆だねえ」
マコト「だってサッカーガチ勢とか暑苦しいし。てゆうかそもそも俺は汗を流すとかそういう…」
ショウ、鞄を拾い上げ背負い込んでいる。
ショウ「分かった分かった!もういいって!でも、まっさかこんなところに罠があるとはなぁ…ま、オッケ。次いこ次!」
7 校舎内の廊下・九時四十分
ショウ、授業中の103と書いてある教室のドアを少し開けて覗いている。
扉の隙間から教室内の時計を映す。人気の無い廊下。授業の声が漏れている。マコト独り言のように呟く。
マコト「はいはい今度は座学ね?あくまで授業を受けたいと」
ショウ「だって授業無いと思ったら授業出たくなるじゃん…あっ、今いける」
二人、こっそりと教室内に入り込む。
8 狭めの教室・シーン6の続き
教室内では、生徒がまばらに席に着いている。
教師「…このように全く別物に見えてくる、と。で、さらに同時対比と継時対比という二種類が出てくるわけで…」
教師、黒板に文字を書きながら授業をしている。
マコトとショウ、最後列の机の下からゆっくり顔を出し、小声で話しだす。
マコト「なんの授業だ?これ」
ショウ、鞄からノートとペンケースを取り出し、授業の雰囲気に合わせようとしている。
ショウ「いや、知らない」
ショウ、教壇をぼーっと見つめている。
マコト、教室内をキョロキョロと見回している。
マコト「…あ、石井じゃん」
ショウ「げ、どこ?」
ショウ、焦ったように周りを見回す。
マコト「どこってほら、あっち。突っ伏して寝てるけど、あの赤頭、石井だろ」
マコト、左前方に座る石井(20)を指す。
ショウ「なんだ寝てんの。良かった〜」
9 教室(ショウの回想)
がらんとした教室の後ろでショウが鞄の中を何かを探しているところに、石井がやってきてショウを追いかけ回している。
ショウM「いや俺さぁ、あいつに借りてた色彩の教科書失くしちゃってさぁ。あいつが弁償しろ弁償しろって…」
10 教室・シーン8の続き
ショウ、屈みながら前方の石井の様子を探っている。
マコト「いや、弁償しろよ」
ショウ「だってあれ無駄に高いし。無くてもなんとかなりそうじゃん」
マコト「あれ、色彩学の先生って眼鏡のオッサンじゃなかった?」
マコト、教壇を眺めながらショウの話を聞いている。
ショウ「そうそー」
マコト「気難しそうな、眼鏡の、おっさん」
マコト、教壇に立つ教師(50)を指差す。
ショウ、つられて前方に視線を向ける。
教壇に立っている教師、眠っている石井の方を睨みつけている。
ショウ「あららら?」
マコト「これ、色彩学だな」
教師「そこ、5列目の寝てる君!隣の人、起こしてあげてくれるかな」
ショウ、身を屈めて前方の石井を見つめる。
石井、隣の学生に揺すられ、ゆっくりと起き上がろうとしている。
ショウ、ゆっくりとペンケースを鞄に仕舞う。
マコト、ショウのノートを奪い取り鞄に突っ込む。
ショウ「撤退!」
ショウ、小声で伝えると、二人は屈んだまま教室から退出する。
11 食堂・九時五十分
空席が目立つ食堂。
食堂正面には九時五十分を指す時計。その時計を背にするようにマコトとショウが並んで席に座り、スマートフォンの画面を見つめている。片手には食堂のコップ。マコトのコップは空。
ショウのコップには水やお茶が入っている。
マコト「ほらな、これ」
マコト、スマートフォンを指す。画面には火曜一限色彩学の文字。
ショウ「あれって後期もあったんだな、知らなかったわ。取ってたけど」
ショウ、椅子に踏ん反り返り、コップを逆さにしてお茶を飲み干す。
マコト「あ、お代わりいる?」
マコト、空のコップを軽く持ち上げる。ショウ、コップをマコトに渡す。
ショウ「おう、サンキュ…あー!閃いた!」
ショウ、マコトからコップを奪い取るとそのまま立ち上がる。
マコト「ええ、何?」
ショウ「マコト、お前知ってるか。食堂のお茶はタダなんだぞ」
マコト「でた、時間と金の話」
ショウ「元取るぞ元〜!」
ショウ、マコトからコップを奪い取り、冷水機の方向へ歩いていく。
× × ×
ショウ、ふちぎりぎりまでお茶を入れたコップを両手に居酒屋店員のように持ち、席へ戻ってくる。マコト、携帯をいじっている。
ショウ「おーい、なんか種類いっぱいあった!」
マコト「うわ、それこぼすなよ?」
何人かの学生がショウの後ろを通っている。
ショウ「なにぃ?居酒屋バイト歴1年半のこの俺を舐めるなよ?最近なんてバイトリーダーを任され…」
最後に通った学生がショウの背中にぶつかり、ショウはよろけてマコトと後ろに座っていたアツミ(19)にもお茶をこぼす。
ショウ「あ、」
マコト「おい、バイトリーダー何してんだよ?」
マコト、勢いよく立ち上がり、マコトの椅子がアツミにぶつかる。アツミが飲んでいたお茶が自分にかかり、眉を顰める。
ショウ「ちょっ!今のは!不慮の事故…、あああ!」
ショウ、机の上の煙草とライターが濡れているのに気づき、急いで手に取り洋服で拭く。
マコト「は?」
ショウ「まぁまぁ、いうて大したことないっしょ?」
マコトの背後に座っていたアツミ(19)が突然立ち上がる。
アツミ「ちょっと、こっちもかかってんだけど」
ショウ「え?なに?」
ショウ、アツミの怒りに気づかず、振り向く。
アツミとその友人達が眉を寄せて、じっと二人を睨みつけている。
二人「え、あ…すんません、」
状況を察した二人は、頭を下げる。
12 食堂前のベンチ・十時五分
食堂前の時計は十時五分を指している。
マコト、ベンチにもたれかかり、日を浴びている。ショウ、その隣でマコトの服を動かし、乾かしているショウ、マコトの服に風を送るのを止め、マコトと同じように脱力する。
マコト「休講遊びは懲りたなぁ」
ショウ「結局最初の暇な状態に戻ったわけだし…なーんか、重なる時は重なるもんだな」
マコト「まぁでも、休講になんなかったら、こんなんできなかったし。お茶かけられたけど、プラマイゼロってことにしとくか」
ショウ「お前、優し!あー!授業受けるより疲れた気する。なんかこう、精神的に?」
ショウ、話しながらポケットから濡れた煙草とライターを取り出す。
マコト、大きくあくびをしている。
マコト「日頃の行いのせいな気もするけどな。俺もなんか疲れたわ」
ショウ「どうする?図書館行って時間潰す?」
ショウ、しなしなの煙草をくわえ、ライターで火をつけようとするが、何度やってもガスがつかない。諦めて両手を投げ出す。
マコト、腕時計で時間を確認する。
マコト「あと三十分だけどー…」
ショウ「だけどー?」
マコトとショウ、顔を見合わせ、真顔でしばし固まる。
二人の頭上には青空が広がっている。
二人「帰るかぁ」
完
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