日本大学芸術学部映画学科

〈映像表現・理論Ⅱ〉の課題Ⅰ、ショートムービーを作る、の撮影が始まりました。
映像専攻、約28名を2班に分け、それぞれ、シナリオ専攻の書いたシナリオで撮影します。
今回は、B班の撮影風景と、シナリオを掲載します。
(A班はまた後日、掲載します)

B1

B2

『saddle』

登場人物
・佐知子(20)
・菜月(20)
・陸斗(20)

1 喫煙所
 佐知子(20)、煙草を二本吸っている。片方が短く、短い方を捨て、もう一本くわえ、火を点ける。
 菜月(20)、佐知子の傍まで来る。
菜月「授業は?」
 チャイムが鳴る。
佐知子「(自嘲するように)今、終わったよ」
 と、歩き出すと、謎の男にぶつかる。
佐知子「おい! 謝れよ!」
 謎の男、足早に去っていく。
佐知子「ったく。絶対、友達いないな」
菜月「(佐知子を見ながら)昔のヤンキーみたい」

2 駐輪場
 佐知子と菜月、並んで歩く。
菜月「留年なんて、洒落にならないよ」
佐知子「原付欲しいな。チャリはきついし」
菜月「次遅刻したら、死刑になるから」
佐知子「大学生にもなってチャリはダサい」
菜月「単位、何個とれたの?」
 佐知子、急に立ち止まり、
佐知子「ない」
菜月「え、一個も?!」
佐知子「違うよ! ないんだ。チャリの」
 菜月、自転車を見る。サドルがない。
佐知子「サドル」

3 タイトル
「saddle」

4 校門前
 佐知子は、自転車を押し、菜月は自転車に乗って歩いている。
佐知子「盗みなんて、されるのは初めてだ!」
菜月「されるのは?」
佐知子「絶対に犯人を捕まえて、そして」
菜月「そして?」
佐知子「二度と自転車にも、乗れないようにしてやる」
菜月「じゃあ、サドルを盗む?」

5 校舎の影
 佐知子、双眼鏡を構えて、顔を出す。駐輪場を監視している。
佐知子「怪しい奴はいないか?」
 菜月も顔を出して、駐輪場を見る。
菜月「ここに、一人」
 と、佐知子を見る。

6 駐輪場
 時間の経過と共に、人々が行き交う。
佐知子N「新しいサドルで、犯人をおびき出す」
菜月N「そう映画みたいに行くかなぁ」

7 校舎の影
 佐知子、双眼鏡をのぞきながら、煙草を吸っている。
 菜月、壁にもたれて雑誌を読んでいる。
 時間の経過と共に、佐知子の足もとの、煙草の吸殻と、菜月の読む本のページ数が増えていく。
佐知子N「しかし、なんでサドルなんだ?」
菜月N「全国であるみたいだよ。サドル盗難事件」
 と、雑誌を開いて見せる。雑誌には全国のサドル盗難事件が取り上げられている。
佐知子N「物好が。立ちこぎで帰る苦労を、分かってほしいね」
菜月N「うかつに座ったら、刺さるもんね」
佐知子N「くそ、サドル愛好者め」
菜月N「サドラー、だね」

8 校舎の影
 菜月、本を読み終わり、佐知子を見る。
 佐知子、煙草の残りを見て箱を握りつぶす。
菜月「いったん諦めよ? 次の授業は出ないと」
佐知子「授業の一回や二回は」
 菜月、佐知子を引っ張っていく。
 謎の男の後ろ姿。片手に本を沢山抱え、片手にサドルを持って立ち、佐知子たちを見ている。

9 駐輪場
 佐知子と菜月、一緒に歩いてくる。
菜月「授業に出ても、寝てたら意味ないよ」
佐知子「出てるだけ、マシだろ?」
菜月「それは言えて……ない!」
佐知子「ないの?」
 菜月、走って自転車に駆け寄る。
菜月「私のも」
 菜月の自転車のサドルが外され、代わりに長ネギが刺さっている。
菜月「何で、私のが」
佐知子「(ケタケタ笑う)現代アートかよ」
 と、ふと横に目を移す。
 佐知子の自転車、サドルの代わりに、安っぽい鯉のぼりが刺さっている。
 佐知子、鯉のぼりの端をつまみ、落とす。
佐知子「またやられた」
菜月「(ぶつぶつと)私は授業も真面目に」
 本が落ちる音。
 佐知子と菜月、振り返る。
 謎の男、陸斗(20)片手にサドルを持って立ち尽くす。足元には本が散らばる。
佐知子・菜月「あ!」
陸斗「(手にあるサドルを見て)あ」
 と、後ずさりして、駆けだす。
佐知子「待て! 追うぞって、あれ?」
 と、見渡すと、すでに菜月が走っている。
 菜月、分厚い本を掲げて陸斗を追う。
菜月「返せ! わ・た・し・の~」
 ―暗転。
 本のぶつかる鈍い音。

10 ベンチ
 陸斗、座らされている。額に絆創膏。
 佐知子と菜月、陸斗を見下ろしている。菜月の手にはサドル。佐知子は煙草を吸う。
佐知子「何でやったんだ?」
菜月「映画の警官みたいで、いいね」
陸斗「お、お前らが」
佐知子「なに?」
陸斗「お前らが、悪いんだ?! ロクに授業も出ないくせに!どうせ、小津安二郎も知らないだろ?!」
菜月「東京物語とかのでしょ?」
陸斗「え?」
佐知子「晩春、大学は出たけれど、とかね」
菜月「それは流石に」
陸斗「サ、サドルにはな、夢があるんだよ! お前らも、それに気づくべきなんだ!」
佐知子「(呆れたように)サドラーってのは。理解できねぇよ」
菜月「とにかく、他の人には黙っといてあげるから、もうサドルなんか盗むのは止めてね?」
陸斗「(渋々)分かった」
佐知子「次盗んだら」
 と、煙草の火をサドルに近づけていく。
陸斗「や、やや、やめろおお!」

11 喫煙所
 佐知子、煙草を二本吸っている。短い方を捨て、もう一本を眺めている。
 菜月、佐知子の傍まで来る。
菜月「授業は?」
佐知子、煙草を捨てて、立ち上がり、
佐知子「今、行くよ」
 その瞬間、チャイムが鳴る。
佐知子「あ」

12 駐輪場
 佐知子が歩いている。急に立ち止まり、
佐知子「ない」
 自転車の、サドルだけが落ちている。

(終わり)

2014/05/26

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